アメリカの市民生活

新「ラウンドアップ」は45倍危険

ガン患者からの巨額の集団訴訟を受けて、バイエルは除草剤「ラウンドアップ」の成分を見直しました。その新製品は、旧製品より45倍も危険なことがわかりました。

発売50周年

 今年は、アメリカの化学大手モンサントが、発ガン性の疑いがもたれているグリホサートを有効成分とした除草剤「 ラウンドアップ」を発売してから、ちょうど50年だそうです。
 これほどのロングセラー商品となっているのは、安全性が評価されているからではありません。
 グリホサートでは枯れない遺伝子組み換え作物を次々と開発したり、批判的な学者やジャーナリストの意見を封じ込めたり、政治家に働きかけたりと、モンサントの巧みな戦略が功を奏してきたのです。
 この戦略を同社は、アメリカ国内だけでなく、日本も含め世界中で展開していきました。
 こうしたなか、50周年を記念?して、アメリカの環境NGO「地球の友」が改めてラウンドアップの危険性を調査し、このほど結果を公表しました。
 アメリカでは「ラウンドアップ」を使い続けた結果、悪性リンパ腫を発症したと主張する市民らが、発売元であるドイツの製薬大手バイエルを訴えた巨額の集団損害賠償訴訟が、あちこちで続いています。
 バイエルは2018年にモンサントを買収し、訴訟も引き継ぎました。
 今のところ裁判は勝ったり負けたりですが、この間、バイエルの株価が大きく下落するなど、訴訟はバイエルにとって大きな負担となっています。
 そこでバイエルは、消費者などがラウンドアップに対する損害賠償訴訟を起こすのを不可能にするため、密かに、連邦議会や各州の議会に法改正を働きかけています。
 同時に、2023年から家庭向けの「ラウンドアップ」にはグリホサートを使用しないと公言し、グリホサートに代わる新たな有効成分の開発を進めてきました。
 ところが、「地球の友」の調査で、いろいろな事実が明らかになりました。
 まず、バイエルは約束を守っていませんでした。
 大手ホームセンター・チェーンのホームデポとロウズの店舗で売られている様々なタイプの「ラウンドアップ」を調べたところ、今年10月時点で、少なくとも7種類のラウンドアップ製品にグリホサートが使われていました。

グリホサートより危険な有効成分

 より深刻な問題は、グリホサートの代わりに新たに採用された有効成分の中に、グリホサートよりはるかに危険な化学物質が含まれていたことです。
 それらは、二臭化ジクワット、フルアジホップ-P-ブチル、トリクロピル、イマザピックという4種類の化学物質。
 バイエルは、これら4種類の化学物質を組み合わせて、グリホサートの代替品に仕立てていました。
 地球の友は報告書の中で、これら4種類は、環境保護庁(EPA)の安全性評価で、長期にわたって曝露した場合のリスクや、生殖機能にかかわるリスクが、グリホサートよりも高いと評価されていると指摘しています。
 また、出生異常、発達異常、生殖機能障害、腎臓や肝臓の損傷、皮膚・目・呼吸器系に影響を及ぼす刺激、炎症、アレルギー反応など、様々な健康被害との関連が指摘されているとも報告しています。

EUは2019年に禁止

 4種類のうち最も危険な物質は、すべての新ラウンドアップ製品に含まれている二臭化ジクワット。
 グリホサートの200 倍の慢性毒性があり、非常に危険な農薬に分類されている、と報告書は説明しています。
 欧州連合(EU)は2019年、人体や水生生物に悪影響を及ぼす恐れがあるとして使用禁止に踏み切りました。
 しかし、日本では、除草剤の有効成分として使用が認められています。
 4種類の新たな有効成分のリスクを総合的に判断すると、新「ラウンドアップ」は、長期にわたる慢性的な曝露による人体への毒性が、平均して旧ラウンドアップの45倍も高いと、報告書は結論付けています。
 新「ラウンドアップ」は人の健康に大きな脅威となるだけでなく、生態系にもさらに大きなリスクをもたらすと、地球の友は分析しています。
 例えば、ミツバチ、鳥、魚、水生生物、ミミズに対する毒性は、従来の「ラウンドアップ」より強い、と述べています。
 また、環境中での残留性も高く、地下水の汚染を通じて、飲料水を汚染するリスクが高まる、と警告しています。

日本でも発売されるのか?

 新たな有効成分は、法律に基づいて、すべての「ラウンドアップ」製品の原材料欄に記載されています。
 しかし、新たな有効成分のリスクに関する警告文が添付されていないのは問題だ、と地球の友はバイエルの姿勢を批判しています。
 また、中身がより危険な成分に置き換わっているのに、それを容認する行政も問題だとして、EPAを名指しで批判しました。
 旧製品より危険な新「ラウンドアップ」が、日本でも発売されるかどうかは今のところ不明ですが、日本に早晩、入ってくる可能性は十分にあります。
 そう考える第一の理由は、二臭化ジクワットが使われている製品は、それを禁止しているEUでは販売できないので、農薬天国の日本がターゲットにされやすいからです。
 第二の理由は、グリホサートを長年使用してきた結果、グリホサートに耐性を持つ植物が徐々に増えて、除草剤としての効果が薄れているからです。
 いずれにせよ、普段からできるだけ有機食品を選ぶよう心掛けていれば新「ラウンドアップ」が入ってきても、それほど心配する必要はありません。